私たちの暮らしと日本のものづくりを支える化学産業。石油化学・機能性化学・ライフサイエンスなど分野は広く、製造現場が抱える課題も多様化しています。当然、それらに対する解決方法も一様ではありません。
今回は、それらさまざまな課題を解決していくために重要となっている「匠の知恵を活用した操業」について解説します。
さまざまな文献で、「匠」について調べたところ、「変化の気づき」「意味づけ」「経験や知識と突合せ」という3つの要素を抽出することができました。このうち、前者2つがいわゆる「属人化してしまっている要素」であると考えられます。
ここでは匠を以下のように定義します。
匠とは、自分の職能において保有する技術が、他に比類ないほどの高いレベルに達した熟練者を指す言葉であるが、さまざまな情報が得られる現在においては、単に技術が優れているだけではなく、変化に気づき、それに適切に対応する高い能力を持った人を指していると考えられる。
つまり、匠とは、状況(データ)を正しく読み取り、その意味や価値を理解し、自らの経験や知識と結びつけて、最適な行動をとることができる人である。
製造現場ではさまざまな課題がある中で、それらが放置されることによって起きる大規模な設備トラブルの懸念の声も増えてきています。
ベテランのリタイアによる「技術伝承」が課題と提唱されてから相当な時間が経過しているにもかかわらず、その継承が十分に行われていないのが現状ではないでしょうか。製造現場では生産品変更や設備改造の積み重ねなどにより、日々操業の内容に変化が生じていますが、設計思想を十分に理解できないまま、さらには現状とのギャップに疑問を浮かべながらでも、世代交代による若手中心の操業に移行せざるを得ない、人的要因の増加が想定されます。
より多くの人が「いつもと違う」ことに気づくことができれば、トラブルの影響を最小限にできるのではないでしょうか。